本記事では電力業界の専門用語「グロス・ビディング(GB)」について解説します。
目次
グロス・ビディングとは
グロス・ビディングとは、旧一般電気事業者が従来社内・グループ内取引で行っていた、発電した電力の一定量を卸電力市場に限界費用ベースで放出する自主的取組みです。 旧一般電気事業者はそこから必要な分を限界費用ベースで買い戻しを行います。
電力自由化以降も旧一般電気事業者及びJERAの保有する電源は日本において大きなシェアを維持しており、旧一般電気事業者の小売部門もまた大きなシェアを維持し続けています。 このような状況下で旧一般電気事業者は自社・グループ内の需要を満たすために、発電した電力のほぼ全てを社内・グループ取引で取引し、余剰電力のみを卸電力市場に放出していました。 こういった状況は卸電力市場で取引可能な電力量の不足を招き、自社電源を確保しづらい新電力にとって大変不利であるということで、2017年4月から旧一般電気事業者の自主的取り組みとしてグロス・ビディングが開始されました。
グロス・ビディングのメリット
グロス・ビディングには以下のメリットがあるとされています。
- ①市場の流動性向上
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旧一般電気事業者は必要な分を限界費用ベースで買い戻すため、市場全体での約定価格が限界費用よりも高い場合は、供出した分を全量買い戻せないことも有り得ます。その場合は他の売り入札者から買うことになるため、市場の流動性が向上するとされています。
- ②価格変動の抑制
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旧一般電気事業者は必要な分を限界費用ベースで買い戻すため、単純に約定価格付近の売り・買い入札が増加することになります(高値での売り・買い入札が全体割合で相対的に少なくなる)。これにより売買入札曲線の傾きが緩やかとなり、価格変動の抑制効果が期待されるとされています。
- ③透明性の向上
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グロス・ビディングにより社内・グループ取引の一部が透明化されるため、社内・グループ取引の透明化が向上するとされています。
グロス・ビディングの限界
上記で述べたグロス・ビディングのメリットについて、①市場の流動性向上②価格変動の抑制 は一定程度効果が見られているとされています。 ※諸説あり 諸説ありとしたのは、結局自主的取り組みでしかないため、電力需給ひっ迫時など、旧一般電気事業者内の供給に余裕が無い時点においては守られないことがあったためです。 こうした電力需給ひっ迫時において旧一般電気事業者は「確実に買い戻せる価格」で買い戻すため、卸電力市場全体における約定価格から離れた取引が増加し、価格が逆に高止まりすることに繋がりかねません(旧一般電気事業者にとっては社内・グループ内取引が外部化しただけなので、高値取引でもプラマイゼロになります)。 ③透明性の向上については、まあ一定程度効果はあるのでしょうが、上記の「確実に買い戻せる価格」での買い戻しが増加すれば全く参考にならないデータとなってしまいます。 その他に卸売の限界価格に定量的な指標が無かったりと色々と問題はあるのですが、卸電力市場における取引量・流動性が向上しただけでも、新電力の参入障壁を低くするのに一定程度効果はあったのでは無いかと思います。
制度自体は悪くないと個人的には思うよ。
グロス・ビディングの廃止と今後
そんなグロス・ビディングですが、2021年8月の審議会を経て、将来的に現在の形のグロス・ビディングを廃止することが既に決定されています。 ただし条件付きで、旧一般電気事業者の内外無差別的な取引の実現に向けた新たな規制への移行を前提としています。 実際東京エリアにおいては、JERAと東京電力の契約変更が取引透明性の向上に繋がると評価され、グロス・ビディングが既に2021年11月より全国で先行して廃止されています。 「新たな規制」はまだ審議中というか、具体的な内容が私の知る限りは未だ出てきていないので、グロス・ビディング自体は東京エリア以外現在進行形で実施されています。 このようにまだ様々な課題が残されていますが、国から旧一般電気事業者に対し「内外無差別的な取引の実現」に向けた取り組みを行うようにとの通達が2020年7月に出されています。 既に関西電力等の数社は対外的に広く電力の卸販売契約を募集しており、国が規制を行う前に各社が自主的な取り組みを行っているようです。
国も理想論だけじゃなくて何かしら指標を出せばいいのに、と個人的には感じているよ。
まとめ
- 「グロス・ビディング」とは、旧一般電気事業者が発電した電力の一定量を卸電力市場に限界費用ベースで放出する、自主的取り組み。
- 「グロス・ビディング」には3つのメリットがあるが、制度としての限界がある。
- 「グロス・ビディング」は将来的に廃止されることが決定されている。
今後の旧一般電気事業者と政府の動向に注目だね。