本記事では電力業界の専門用語「常時バックアップ(常時BU、以下常時BU)」について解説します。
目次
常時バックアップ(常時BU)とは
常時BUとは、新電力が旧一般電気事業者と契約を結び、新電力が供給する一部の電力について旧一般電気事業者から供給を受けることです。 この場合、需要家の契約相手は新電力のみとなるため、旧一般電気事業者+新電力の2社とで契約することになる「部分供給」とは形態が異なります。
なぜこのような契約が存在するかというと、新電力は安定した電源を持たないことが多く、需要家と電力契約を結んだとしてもそもそもの供給量が足りずに卸電力市場への依存が高くなってしまうためです。旧一般電気事業者が代替電源として機能することによって、新電力の経営安定化に繋がります。
常時BUに関する規制について
常時BUは電気事業法で規制されているわけではなく、グロス・ビディングと同じく旧一般電気事業者の自主的取り組みに近いです。 ただし供給力不足等の正当な理由なく常時BUを旧一般電気事業者は拒否してはならない、と国が定めたガイドラインに記載がされている他、新電力への卸売価格は電力小売価格を超えてはならないとされています。
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新電力への卸売価格に明確な指標は無く、上限が実質的に定められているだけなので、実際の卸売価格は各旧一般電気事業者との契約によって異なります。 また、市場での取引ではなくあくまで相対取引のような形になるため、常時BUを利用したい場合は新電力側から旧一般電気事業者にコンタクトを取り契約を行う必要があります。
常時BUの限界
常時BUは市場取引ではなく継続的な相対取引ですので、旧一般電気事業者にとっても提供可能な電源に限りのある現状、一部新電力による常時BUの既得権益化や転売が報告されており、国の審議会で問題視されています。 ただまあ、「既得権益化」は裏返して言えば一部大手新電力の安定した代替電源として長年機能しているということですので、個人的にはそこまで悪いことだとは思わないです。 「転売」は非常に悪質です。 常時BUの価格は上記で触れた通り電力小売価格を超える水準以下と上限が定められているため、現在のように社会情勢が悪化した状況や電力逼迫下においては、電力価格のリスクヘッジとしての役割が非常に強くなります。 事業休止等で自社供給量を抑え、常時BUで手に入れた安い電源を市場に高値で転売するような新電力がいるというのは制度の悪用に他なりません。 また、このような状況下で常時BUが旧一般電気事業者の赤字供給になりかねないというのも非常に問題です。
常時BUの廃止及び今後
上記のように問題点が指摘されている常時BUですが、「旧一般電気事業者による内外無差別的な卸売」が実現した場合は廃止していくこととされています。 現状はどのエリアでも常時BUを旧一般電気事業者は拒否できないこととされていますが、今後は電力・ガス監視等委員会がエリア毎に「内外無差別性」を判断して廃止措置を行っていく予定です。 国から旧一般電気事業者に対し「内外無差別的な取引の実現」に向けた取り組みを行うようにとの通達が2020年7月に出されています。 既に関西電力等の数社は対外的に広く電力の卸販売契約を募集しており、国が規制を行う前に各社が自主的な取り組みを行っているようです。
「内外無差別性」って非常に定性的な表現だから、何かしら定量的な指標を国には出してほしいね。
まとめ
- 「常時バックアップ(BU)」は、新電力が旧一般電気事業者と契約を結び、新電力が供給する一部の電力について旧一般電気事業者から供給を受けること。
- 「常時BU」には制度上の問題があり、今後制度の内容は変わっていく可能性がある。
- 「旧一般電気事業者による内外無差別的な卸売」が実現した時点で「常時BU」は廃止していく予定。
「グロス・ビディング」と同様、今後の旧一般電気事業者と政府の動向に注目だね。