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【猿でも分かる】容量市場について分かりやすく解説

本記事では容量市場の仕組みから設計の背景、関連制度について分かりやすく解説します。

今後の供給力確保の要となる制度だよ。
業界人にとって必要な知識なのは勿論のこと、
一般家庭の電気料金にも関わってくる部分。
この記事でしっかり正しい知識を身に着けよう。

目次

容量市場とは?

容量市場とは、4年後に必要な発電能力(供給力)をオークション形式で募集する仕組みです。

電力自由化以前は地域ごとの電力会社が独占的に電気を供給し、安定供給に係る費用は国に申請された規制料金を通じて安定的に回収されてきました。

「総括原価方式」という仕組みだよ。

しかし2000年以降は段階的に電力自由化が進み、2016年に完全自由化となりました。
東京電力等の「旧一般電気事業者」は数ある電力会社の一つとして市場競争に参加することとなり、発電への投資を安定的に回収する見込みが次第に難しくなってきています。

例えばここに運転効率の悪い火力発電所Aがあるとします。

私は火力発電所A。老朽化で運転効率も悪いわ。

発電所を動かすのには多くの人員が必要であり、運転可能な状態を維持しているだけで大きな維持費がかかります。
さらに昨今は再エネ発電の普及により火力発電所の稼働率が下がっており、電気を売ることによる収益も多くは見込めない状況です。

赤字になるし、発電所Aの運転は休止しよう。

電力自由化の中でこういった発想になるのは、民間企業である電力企業にとって非常に自然なことです。

しかし新たな問題が出てきました。火力発電所の休廃止が相次ぎ、供給力が不足してきているのです。
2022/7/20 電力基本政策小委員会 エネ庁資料から引用
ここ数年で急に節電が叫ばれるようになったと感じる方はいらっしゃいませんか?
それは火力発電所の休廃止と、東日本大震災以降の原子力発電所の休止が原因です。

その分再エネ発電所は増えていますが、天候によって発電量が左右される再エネ発電所は火力発電所の完全な代替にはなり得ません。
特に再エネの稼働が低い時間に柔軟な運転ができる火力発電所が減ることで、安定供給の根幹が揺るがされる事態となっています。

そこで登場したのが「容量市場」です。
容量市場は発電所の維持費の一部を発電事業者に支給することで、発電所の過度な休廃止を未然に防ぎ、将来(4年後)の供給力を確保する役割を持っています。

容量市場の仕組み

容量市場の募集メインオークションは4年前に行われます。
例えば最初の容量市場募集は2020年度に実施され、2024年度分の供給力が募集されました。

募集に応募する発電事業者は、4年後提供可能と思われる供給力(kW)と、4年後その発電所を1年間維持するために必要と思われる「応札価格」(円/kW)を提出します。

応募された発電所は応札価格(円/kW)が安い順に並べられ、落札されていきます。
そして最後に落札された発電所の応札価格(円/kW)が「約定価格」となり、落札された全ての電源にこの約定価格が適用されます(シングルプライスオークション)。
例えば以下のような感じです。
供給力:1,000kW
応札価格:5,000円/kW
約定価格:8,000円/kW
⇒4年後受け取れる金額:1,000kW × 8,000円/kW = 800万円
約定価格の仕組みは実際もう少し複雑なので、詳しく知りたい方は以下のサイトをご覧ください。
落札された発電所は4年後に供給できるよう、発電所を維持する義務を負います。
そして4年後には発電できるように準備をし、電力需給ひっ迫等で発電指令が出された場合に発電しなければなりません。

実際の発電指令が出された場合に、事前に提出していた供給力(kW)よりも発電できなかった場合、ペナルティとして貰えるお金が減ります。
また何らかの事情で供給力が減ったりする場合もペナルティが課されることになります。

エリアプライス

約定価格については地域ごとに若干の違いがあります。(エリアプライス)
容量市場は基本的に全国市場で約定価格が決定されますが、どうしても電源が不足する地域と過剰な地域が出てきてしまうのです。
その後不足する地域と過剰な地域とで微調整を繰り返すため、不足する地域はエリアプライスが高く、過剰な地域はエリアプライスが安くなるのです。

さらにエリアプライスが隣接地域のエリアプライスの1.5倍を超えた場合、「マルチプライス」という方式が適用されます。
これは約定価格の過剰な吊り上がりを避けるため、その電源不足地域のエリアプライスを「隣接地域のエリアプライス×1.5倍」に留めるという処置となります。

「隣接地域のエリアプライス×1.5倍」からはみ出した電源については、電源が充足するまで応札価格を約定価格として落札されます(マルチプライス)。
Aのエリアプライス:5,000円/kW
Aと隣接するBのエリアプライス:7,500円/kW
Bにある応札価格8,000円の発電所は、Bの電源がまだ充足していない場合、応札価格8,000円がそのまま約定価格として落札される。 ※Bにある応札価格7,500円以下の発電所は一律7,500円/kWを受け取る。
今のところ、このマルチプライス制度が適用されているのは北海道と九州のみです。
その他の地域は大体数円単位の差しかありませんが、北海道と九州のエリアプライスのみ他地域の1.5倍相当となっています。

追加オークション

容量市場の募集は4年前に行われますので、募集された当時とは電力需給の状況が異なっている場合があります。
当初の見込みよりも追加で供給力が必要となることもあるでしょう。
その場合、必要に応じて実需給の1年前に「追加オークション」が実施されます(開催されないこともあります)。

リリースオークション

容量市場の募集は4年前に行われますので、募集された当時とは電力需給の状況が異なっている場合があります。
当初の見込みよりも供給力が過剰になっていることもあるかもしれません。
その場合、必要に応じて「リリースオークション」が実施されます(開催されないこともあります)。

リリースオークションにて落札された電源は、対価(当初の約定価格の一部)を受け取ることで、供給力の維持に関する義務を手放すことが可能となります。
つまり、容量市場に応札していなかったことにできるわけです。

リリースオークションは最近国の審議会で決まったんだ。
そこまで開催を見込んでいない制度だよ。

お金の出どころについて

電源維持のために必要なお金の一部を発電事業者に提供する制度であることは上記で説明しました。
ではそのお金の出どころはどこでしょうか?

この制度に必要なお金は、「容量拠出金」として小売電気事業者と一般送配電事業者が負担することとなっています。

これは需要シェアに基づいて負担するため、シェアの大きい旧一般電気事業者が大きく負担することにはなります。
ただし旧一般電気事業者は発電所を多く所持しているため、容量市場から得るお金も大きいです。

一方、発電所を持たない一部の新電力は容量市場からお金を得ることができず、容量市場運営のために追加の費用を払うのみとなります。

将来の供給力確保のために必要だけど、一部の新電力にとっては不利な制度であるということだね。

容量市場の実際の運用が始まる2024年度以降、容量拠出金を理由に値上げをする新電力があるかもしれません。

経過措置

容量市場に必要なお金の多くは小売電気事業者が支払うこととなっており、経営への影響が懸念されます。
そのため、2025年度~2029年度向け(2021~2025年度開催分)の容量市場メインオークションにおいて、2010年度末までに建設された電源(一部例外有)を対象に、落札された発電所へ支払われる金額から一定額を控除することとなっています。

「容量拠出金」の負担を減らすということだね。

控除には「経過年数による控除」と「入札内容に応じた控除」の2種類あります。
「経過年数による控除」は対象電源が問答無用で控除されます。
「入札内容に応じた控除」は、対象電源のうち、その応札価格が、約定価格に一定の税率(直近2022年度開催分は85.6%)を掛けた価格以下であったものが控除対象となります。
約定価格:1,0000円(×85.6%=8,560円)
2010年度末以前に建設された電源A:応札価格8,000円
⇒「経過年数による控除」「入札内容に応じた控除」どちらも対象となる。
控除率は今後変更されることもありますが、以下の通りです。
広域機関「容量市場かいせつスペシャルサイト」より引用

募集される電源

募集される電源に特段制限は無く、火力・水力・原子力・再エネです。
細かい条件に関しては以下のサイトをご覧ください。

約定価格について

容量市場の約定価格は、2024年度向けの初回オークションでは14,137円/kWでした。
その後、2025年度向けオークションでは北海道と九州が5,242円/kW、それ以外のエリアは3,495円/kWとなり、2026年度向けでは北海道と九州が8,748~8,749円/kW、それ以外のエリアは5,832~5,834円でした。
大幅に安くなったことが分かります。
なぜ約定価格が大幅に安くなったかと言うと、初回オークションにおいては「逆数入札」が認められていたためです。
「経過措置」については既に述べましたが、2024年度の控除率は42%という非常に高い数値でした。
その中でも電源維持のコストを確保するため、初回のみ認められたのが「逆数入札」です。

これは100%から42%を引いた58%の逆数、つまり100/58を本来の応札額に乗じて応札できる制度となります。
そのため実際に必要な金額よりも高い価格での落札が多くなり、初回のみ約定価格が跳ね上がったのです。

2025年度向け以降は応札ルールが変わり、約定価格が落ち着きました。

また、約定価格は応札価格を0円/kWで出す発電所の数によっても左右されます。
こういった発電所はそもそも容量市場が無くても運営できる発電所であることが多く、確実に追加収入を得たいという目的で0円応札を行っているようです。

0円入札が多くなってしまうのは制度上仕方が無い。
ただあまりにも多くなると、容量市場の供給力確保に対する効果は限定的になってしまうかもしれないね。

容量市場の関連制度について

容量市場の関連制度として、需給調整市場や長期脱炭素電源オークション、予備電源などがあります。
これらの制度は各々役割がありますが、全体像が非常に複雑であり分かりづらくなっています。

まずは個別の制度についての理解を深め、全体像を掴んでいくのが良いでしょう。

関連制度については執筆中だよ!

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